重力ピエロ

重力ピエロ

重力ピエロ

実は、昨年四国に遊びに行ったときの帰りに、手持ち無沙汰で購入した本。帰りの新幹線では、もう夢中になって読んでた。

(新潮社の書籍紹介より引用)
ルールは越えられる。世界だって変えられる。読書界を圧倒した記念碑的名作。文庫化にあたり改稿。 兄は泉水、二つ下の弟は春、優しい父、美しい母。家族には、過去に辛い出来事があった。その記憶を抱えて兄弟が大人になった頃、事件は始まる。連続放火と、火事を予見するような謎のグラフィティアートの出現。そしてそのグラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク。謎解きに乗り出した兄が遂に直面する圧倒的な真実とは――。溢れくる未知の感動、小説の奇跡が今ここに。

自分にとっては、はじめての伊坂作品。前から評判は聞いていたんだけど、新潮文庫の煽り文にやられてつい手にとってしまったのが運の尽き。それから何度か読み返していて、その再読の度に色々気が付くことが多い。というか、そういう視点で読むと、全て仕組まれたように綺麗に書かれてるんだよなあ。初読のときは、その人物造詣描写や会話のウィットさにうっとりしながら読んでて、突飛な話題やそれらしい言葉も不思議とスルーしてた。


でも、そういった推理要素よりも何よりも、やっぱり登場する人物の素敵っぷりにやられるんだよな。
とりわけ印象的なのは、最後のクライマックスシーンに位置する2つのシーンだ。ほのかな憧憬すら覚える部分だった。

私を放火現場に連れて行ったのはどうしてなんだ、と訊ねる。「お守りがわりだったのか?」と。
「そう言ってしまえばそうだけど」
「やっぱりそうなのか」
「まあね。だって」その後に続けた春の言葉は短かった。「俺たち兄弟は最強じゃないか、兄貴」

これ、書籍紹介でもよく目にする引用の部分だけど、実は最初から読んでこのシーンにたどり着いた人にしか分からない要素が含まれてて、そこに思わずぐっときた。最強じゃないか、の言葉はこの場所に来てとても重たく胸を打つ。春が子供ではなく、もう立派な大人であるからこそ。


そして、テーマと絡んでくるもう一つのシーンが、ラスト近く、父親と病院で兄弟2人が会話するシーンだ。ここは引用文は伏せるけれど、とにかく読んでいたとき痺れた。他の複線だのなんだのは、実はこのシーンで全て解決してしまうんじゃないかくらいに。言葉にすると陳腐な言葉のシーンだけど、ウィットに富んだ文章が続いた後に、こんななんでもない言葉が来るところで、思わずじーんとしてしまう。


余談だけど、出てくる男がどいつもすげー格好いいし、泉水と春の兄弟の絡みがかなりいいので、腐女子系の方にもオススメだったり。
ともあれ、普段なかなか気に入る作家さんって少ないんだけど、久々に作家買いしたくなる人に出会えたのが嬉しかった。次の作品を読むのが楽しみっす。